本研究では、「非共鳴高強度短パルスレーザー場を用いた新しい振動分光法を開発し、電子基底状態における孤立分子クラスターの分子間ポテンシャルを決定すること」を目的したものである。昨年度は、NO-Arおよびベンゼン2量体に対して、非共鳴高強度短パルスレーザー光(ポンプ光)を照射し、100ns後に高分解能レーザー光(プローブ光)を照射、波長掃引する事で共鳴多光子イオン化を用いた励起スペクトルの測定を行った。その結果、ポンプ光によって分子間振動が励起されることを確認した。これは高強度レーザー光を用い電子基底状態における分子錯体の振動波束を生成した初めての例である。またレーザー光強度を数TW/cm^2から増加させてゆき、20TW/cm^2程度になると、新たな振動モードが励起することが明らかとなった。 励起された振動状態がどのような振動モードなのか明らかにするために、ポンプ光を遅延時間を持つ2つのパルスにわけて、その遅延時間を変化させ、振動状態分布の変化を測定した。得られた信号には、明瞭なビートが観測された。これは短パルス光による瞬間的な撃力により振動波束が生成したことを意味している。このビート信号をフーリエ変換することで、いくつかの振動準位を抽出することができた。観測された振動準位を過去の計算と比較すると、多くの準位は一致するものの、計算と合わない準位もある事が分かった。今年度これらの解析を行い、どのような振動波束が生成しているのか、そのメカニズムとともに明らかにする。
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