電子励起状態の寿命幅内で近接する2状態は、従来の分光手法では分離不能とされてきた。本研究では、波束干渉の方法論を短寿命電子励起状態に拡張することで、それら2状態の共鳴エネルギーを分離して決定する新しい分光手法の開発を目的とした。原理検証実験を行うために初年度に実験装置を整備したが、申請者の移動に伴い実験の実施が困難になった。そのため本年度はより効果的な原理検証に向けて、検証に最適な系の探索を理論研究者と共同でおこなった。 電子励起状態の寿命が短い原因は、真空場との相互作用である自然放出と、それ以外の複素ポテンシャルの効果に大別され、両者は十分に区別して議論する必要がある。本提案の手法は最終的にはどちらにも適用可能な手法ではあるが、まずはより単純な複素ポテンシャルによる短寿命化を対象に原理検証を行うこととし、自動イオン化状態を対象に多電子状態への遷移確率のシミュレーションを開始した。 また、本年度は平行し波束干渉法のもう一つの応用である、束縛状態波束の時間発展を利用した超高速ゲート操作に関する原理検証実験の結果をまとめた。従来のシリコンを基盤とした情報処理は小型化、高速化の限界が見えており、全く新しい原理に基づいた情報処理記述が期待されている。我々はヨウ素分子の振動波束を用い、従来のコンピュータのクロック速度より3桁早い145fsの時間発展で、任意の入力に対して4要素の離散フーリエ変換が実行されることを示した。
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