本研究は真空紫外円二色性計測による糖鎖構造解析の実用化を将来目標としており、まずその基礎として単糖など比較的容易に入手可能な様々な糖試料の真空紫外円二色性スペクトル計測とそれに先立つ糖薄膜試料作製装置開発や真空紫外円二色性計測装置開発等を行うものである。本研究の遂行を将来的には円二色性計測による糖鎖の分子構造解析へとつなげていき、糖鎖の構造解明による各種疾病の予防や治療・製薬開発などへ貢献していきたいと考えている。 本年度は前年度までに開発した溶液ジェット法による糖薄膜作製装置や高感度真空紫外円二色性スペクトル計測装置などを用いて、糖薄膜試料の真空紫外円二色性計測を進めてきた。 例えば最も一般的な糖であるグルコース薄膜の作製を行い、そのα体、β体の薄膜の波長140nmまでの真空紫外円二色性スペクトルの計測などを行った。この時、直線異方性の影響がないことを確認するため、真空紫外円二色性スペクトルの試料回転角度依存性を測定した。その結果本薄膜において円二色性計測に直線異方性の寄与はほぼ存在しないことが分かった。本測定の結果、グルコース薄膜の真空紫外域での光吸収はα体、β体といったアノマー間での違いはほとんど見られないが、円二色性スペクトルは大きく異なる形状を示していることがわかった。アノマー間の分子構造の差異は一部の水酸基の位置が主であることから、真空紫外円二色性スペクトルはこのような糖の僅かな構造の変化に敏感に応答することを如実に示している。 また単糖だけでなくシクロデキストリンと呼ばれるα-D-グルコースが6~8個環状に結合した糖の薄膜作製とそのβシクロデキストリンの真空紫外円二色性スペクトルの測定にも成功し、グルコース間の結合によって、円二色性スペクトルがどのように変化するかなどを調べた。 以上のように当初の研究実施計画に即した研究成果を得ることに成功した。
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