研究概要 |
分子内に二つのカテコール部位を有するアゾベンゼンについて合成を行うことに成功し、その錯形成、光異性化反応、分子認識能について一通り検討を行うことができたので、以下詳細を記す。錯形成は、塩基性条件下、ホウ酸エステルを添加することで行った。種々の条件検討により、配位子とホウ素が1:1の化学量論で反応した錯体がほぼ単一成分として得られる条件を見つけることに成功し、構造決定は^1H,^<11>B NMR、MS、DOSYにより行った。配位子および錯体はともに紫外光(360nm)の照射によって、アゾベンゼン部位のトランス体からシス体への異性化が進行した。また、可視光(440nm)の照射によって逆反応が進行し、トランス体の比率が増加した。錯形成反応および光異性化反応はともに可逆的に行うことができたことから、すべての化学種は外部刺激によって動的な変換が可能であることを示すことができた。シス体のホウ素環状錯体については、^1H NMRにおいて、らせんキラリティーがアゾベンゼン部位まで誘起されたC_2対称の構造のラセミ体であることがわかった。一方、トランス体は自由度が大きくアゾベンゼン部位はほぼ平面の構造をしていることが示唆された。光異性化によるキラリティーの発現は、当初計画していたものでは無かったが、外部刺激による機能の発現として興味深い結果である。最後に、得られた錯体の分子認識について検討を行った。様々なカチオン性ゲストを添加したところ、メチルヴィオロゲンについてのみ認識が起こることを見いだした。トランス体、シス体の会合定数はほとんど同じであり、分子認識能における違いは見られていない。以上の知見より、キラリティーを有するゲスト分子との分子認識によって、らせん構造に基づくキラリティーを発現できることが期待できる。
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