研究概要 |
本年度は単離可能なシリルラジカルであるトリス(トリイソプロピルシリル)シリルラジカル(1)を用いたカルボニル化合物への付加を調査する途上で、関連化合物の合成と性質について明らかにする必要が生じたため、その検討を行った。以下に詳細を示す。 1.シリルラジカルの置換基効果について検討する必要があり、ビス(トリイソプロピルシリル)(フェニルジイソプロピルシリル)シリルラジカル(2)およびビス(トリイソプロピルシリル)(ジフェニルイソプロピルシリル)シリルラジカル(3)の合成を行った。これらのシリルラジカルは対応するフルオロシランの還元により発生させた。発生したシリルラジカル2および3の溶液中室温条件の半減期は10日以上であり、単離可能な1のものより長かった。また、ESRスペクトルの解析ではケイ素上のスピン密度の低下が見られた。以上の結果からシリルラジカル2および3は熱力学的に十分安定であり、その理由は立体障害に加えラジカル中心とフェニル基との相互作用によるスピンの非局在化によるものと推定している。シリルラジカル1-3の性質の違いを利用して、カルボニル化合物付加体の性質をファインチューニングできると考えられる。 2.シリルラジカル2の還元により対応するシリルアニオン種が高収率で得られることが解った。さらにそこからビス(トリイソプロピルシリル)(フェニルジイソプロピルシリル)シラン(4)を合成することに成功した。化合物4のフェニル基は、塩化水素あるいはトリフロオロメタンスルホン酸と反応させることで最終的にクロロ基に変換することができた。この化合物を還元的にカップリングさせ、1,4-ビス(シリルラジカル)の合成に向けた検討を行っている。1,4-ビス(シリルラジカル)はスピン間の相互作用によりシングレットビラジカルとして存在すると考えられ、その電子状態の解明は重要な課題である。
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