研究概要 |
これまで安定なスピン局在化リンラジカルとして2,2,5,5-テトラキス(トリメチルシリル)-1-ホスファシクロペンタン-1-イル(1)の創製に成功している。今年度はこのリンラジカルの反応性および関連化合物について研究を展開した。詳細を以下に示す。 ラジカル1と安定なニトロキシラジカルであるTEMPOおよびAZADOの反応を行ったところ、ラジカルカップリングとN-O結合の解裂、続くシリル基の転位が進行し、種々の環状リン酸エステルが得られることが解った。鍵反応のシリル基の転位の駆動力はジェミナル位の二つのトリメチルシリル基に由来する立体混雑の解消であることを理論計算より明らかにした。また、ラジカル1とシクロヘキサジエンの反応では、対応するヒドロホスフィンが高収率で得られた。これはホスフィニルラジカルが炭化水素から水素を引き抜いた初めての例である。また、1は四塩化炭素や四臭化炭素から容易にハロゲンを引き抜き、対応するクロロおよびプロモホスフィンが生成した。 ラジカル1を配位子にもつパラジウム錯体の合成を検討した。ラジカル1に対してテトラキス(トリメチルポスフィン)パラジウムを作用させると、1を二つ配位子にもつパラジウム錯体が濃青色結晶として高収率で得られた。この錯体のP-Pd結合長は一般的な値より有意に短く、二つのホスファペンタン環はほぼ共平面の関係にあった。これらの構造上の特徴や、NMRなどの各種分光学的性質、および理論計算から、この錯体はラジカルの不対電子に由来するP-Pd-P上に非局在化したπ結合をを持つという極めて特異な16電子0価パラジウム錯体である事がわかった。 ラジカル1のアンチモンおよびビスマス類縁体の合成を検討したところ、結晶中では二量体であるジスチバンおよびジビスムタンとして存在していることがわかった。これらの化合物は溶液中で対応するラジカル種に解離することが分光学的測定により明らかになった。
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