環化付加反応は、複数の結合が一挙にでき、位置、立体の各選択性に関して高いレベルでの制御ができることから、極めて強力な環式化合物を合成するための手法です。遷移金属触媒を用いない従来法では不可能であった形式の環式化合物の合成が、遷移金属触媒を用いることで可能になることから、これまでにも精力的に開発されてきました。環式化合物の一つである複素環化合物は、天然有機化合物から合成医薬品、農薬などの多岐にわたる物質に内包される主要骨格です。その理由が複素環構造の多様性に由来するとも言えます。したがって、21世紀のライフサイエンスを支える観点からも複素環合成法はいくらあっても多すぎることはないと言えます。後周期遷移金属の一つであるニッケルは、有機金属化学の歴史の初期の段階に詳細に検討され、様々な反応に対して高い触媒活性を示すことが古くから知られており、数多くの興味深い反応が見いだされています。そこで、このニッケル触媒の高い反応活性を用いることにより、複素環化合物の新合成方法論を開発できるのではないかと考えました。実際に、ニッケル触媒を用いることで、合成入手容易な複素環化合物の一部分から分子を脱離させて、かわり異なる分子を挿入させる、分子置換型の環化付加反応により、新たに有用性の高い複素環化合物が簡便かつ選択的に合成できることを見出しました。
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