本研究では、アルキニル置換基のもつ特徴(多様かつ活性な反応性・直線状かつ剛直な骨格)を活用し、ジシレン(ケイ素-ケイ素二重結合)ユニットを保持したままの分子変換反応の開発、ジシレンの拡張π電子系分子への展開の礎を築くことを目的とする。アルキニル基はケイ素-ケイ素二重結合に対し反応活性であると考えられることから、今までジシレンへの導入実績がなかった。一方で申請者らはごく最近トリメチルシリルエチニル基を有するE型ジシレン(以下1)の合成・単離に成功し、適切な立体保護を施せば、アルキニル基の導入が可能であることを明らかにした。平成21年度の検討により、新たにフェニルエチニル基を有するジシレン(以下2)の合成・単離に成功し、その構造を明らかにした。その結果、2の構造においてフェニル基はジシレンのパイ軌道に対し平行に位置し、効果的な共役拡張が起こり得ることが示唆された。実際、2の紫外可視吸収スペクトルにおける最長吸収が、1に比べ顕著な長波長シフトおよび吸光度の増大を示すことを明らかにした。このことは2においてフェニル基がアルキニル基を介してジシレン部位と共役していることを示している。この結果は、フェニル基のかわりに種々の置換基を用いることで分子全体の電子状態を制御できることを示しているばかりでなく、複数のジシレン部位をアルキニル基によって連結した拡張π電子系においてもジシレンユニットは互いに共役し、更なるHOMO-LUMOギャップの減少が見られる可能性を示唆する重要な結果である。
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