研究課題
励起波長選択(CT励起)による新規励起化学種の発生の一般性の検証と高い立体選択性の発現機構の解明を目的とし、光反応に特徴的な反応であるPaterno-Buchi反応において、生成物の立体選択性における励起波長の効果を検討した。このオキセタン形成おいて、励起波長を変えるだけで立体選択性が異なるという結果が得られ、さらに興味深いことには、本系での立体選択性はCT励起で一様に低くなった。このことは、CT錯体ではエステルのベンゼン環のπ電子がドナーと相互作用するのに対し、直接励起では、n-π*性のエステルカルボニルとの相互作用が主に寄与するため、キラル置換基と相互作用部位との距離の差が影響し立体選択性が下がる結果となったと説明される。また、この結果はスチルベシ系のCT励起で相互作用距離が近づき選択性が向上したことと逆の結果であり、立体選択制が励起波長の長波長化で必ずしも向上するわけではなく、励起種の性質に依存するという点で興味深い。立体選択性の発現機構の解明のため、a) 温度効果の詳細な検討と、反応におけるエンタルピー・エントロピー項の算出。b) キラルエステルおよびジアリールエテンの置換基効果の検討。c) 溶媒効果ならびに圧力効果等、外部因子による影響の検討。d) 理論評算を結晶構造解析による基底状態構造の検討、を体系的に行った結果、「励起CT錯体がエキシプレックスとは異なる化学種である」ことは普遍的な現象であることが検証できた。
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