アミド基は、我々の日常生活に不可欠である医薬品・化学繊維など様々な分野において、重要な役割を果たす官能基の1つである。このため、効率的なアミド化反応の開発は重要な課題であり、精力的な研究の結果、アミド化反応は現在最も信頼できる反応の1つとして確立されている。一方、生成したアミド基は、ケトンやエステルなどの官能基に比べ、非常に高い安定性を有するため、他の官能基への変換が困難である。変換反応の種類は限られ、その反応条件も過激である。容易に合成できるアミド基を、自由自在に望みの官能基へと変換できるようになれば、重要な生物活性を有するアルカロイドの合成において、これまでにない実用的な新規合成法となりえる。このような背景のもと、N-アルコキシアミド基に対し、異なる2つの有機金属試薬を一度に付加する反応の開発と、本方法論を用いた抗腫瘍活性物質マダンガミンAの全合成を目的とした。 本年度は、N-アルコキシアミド基に対する連続的求核付加反応の最適化条件の確立に取り組んだ。その結果、N-アルコキシアミドをDIBALで処理して5員環キレート中間体を発生した後、ワンポットでルイス酸と様々な求核剤(アリルシラン、ビニルシラン、TMSシアニド)を加えると望みの求核付加反応が進行する事がわかった。本反応は基質一般性が高く、通常困難とされている鎖状アミドや大環状ラクタムに対しても、求核付加体を高収率で与えた。また、本反応は分子内反応への展開も可能であり、鎖状アミドから多置換ピペリジン骨格を一挙に構築できた。
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