本研究は、円二色性(CD)と磁気円二色性(MCD)強度が共に強い有機分子を開発するために、卍形の分子構造を持つキラルなフタロシアニン系有機色素を合成し、その光物理特性を解明することを目的として、平成21年度から平成22年度の若手研究(B)として実施している。このような分子は、新しい磁気光学効果である磁気キラル二色性(MChD)が観測されることが期待されている。平成21年度では、以下の分子群の合成実験を行い、卍形異性体が得られた化合物に関しては、光学分割を行い、CD・MCDスペクトルを測定した。 1.フタロシアニン誘導体:アルファ位に置換基を持つ様々な非対称フタロシアニン誘導体の合成実験を行い、卍形構造を持つ異性体が得られる条件を調べた。卍形構造を持つフタロシアニンとポルフィリンによるサンドイッチ型錯体が光学分割され、CDスペクトル・MCDスペクトルを測定した。量子化学計算と実測のスペクトルデータから卍形分子の絶対配置の帰属に成功した。 2.ヘミポルフィラジン誘導体:ヘミポルフィラジンは二つの対面するピロール部位がトリアゾールなどに置換されたフタロシアニン誘導体であるが、非対称ユニットを用いることでフタロシアニン誘導体と同様に卍形構造を持つ分子が設計できる。長鎖アルキル基を持つトリアゾールヘミポルフィラジンを合成し、卍形異性体を分離した。オキソバナジウム錯体を合成し光学分割カラムを用いてその光学異性体を分離することに成功した。光学活性ヘミポルフィラジンは初めての合成例であり、CD・MCDスペクトル測定と理論計算による解析からこの分子が特異な電子構造を持つことが明らかとなった。
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