擬一次元ハロゲン架橋錯体は大きな電荷移動吸収、高次の共鳴ラマン散乱、大きなStokesシフトを伴う発光、非常に大さな三次非線形光学応答、solitonやpolaronに由来するmid-gap吸収など非常に興味深い物性を示すことから非常に興味深い化合物群である。これらの錯体は、現在までに300種類以上の化合物が合成されているか、例外なく、Ni錯体はNi^<III>のMott-Hubbard(MH)状態、Pd錯体はPd^<II>-Pd^<IV>の電荷密度波(CDW)、状態をとる。われわれは以前の研究において、長鎖アルキル基をカウンターイオンに導入することにより、世界で初めてPd-Br錯体において、Pd(III)のMH状態を実現することに成功し、さらには、CDW-MH相転移を観測した。本研究では、その相転移の起源を明らかにするため、15N-NMR法を用いてCDW振幅を直摂観測することを試みた。その結果、相転移温度より高い温度領域で、CDWの振幅が温度低下とともに減少していく様子を初めて検出することに成功した。 一方、Pdと同属のPt錯体については、Pt(III)状態はこれまで実現されていなかったが、本研究でヨウ素架橋Pt錯体に対しPd錯体と同様に長鎖アルキル基をカウンターイオンに導入した一連の錯体の合成に成功した。その結果、アルキル鎖の長さを変化させると、炭素数に対して隅奇性を示しながら徐々にPt-Pt距離が減少していくことが分かり、また、これらの錯体は既報のヨウ素架橋Pt錯体の中で最も短いPt-Pt距離を持つことが明らかとなり、これらの錯体がPt(III)のMH状態をとっているか、あるいはPt(III)、状態に極めて近い状態であることが明らかとなった。
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