遷移金属-炭素結合を含む環状錯体(メタラサイクル)は1970年代頃からその化学的性質を明らかにする研究が精力的におこなわれ、オレフィンのメタセシス、オリゴメリゼーション等の重要な均一系触媒反応の開発までに至った。これに比べて、炭素と同族の高周期14属元素であるケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)を環成分にもつメタラサイクルの報告の例はほとんどない。 申請者は二座リン配位子をもっパラジウム及び白金錯体と二級ゲルマニウムとの反応より、四原子ゲルマニウムで構成される五員環メタラサイクルの合成反応を見出した。ここでの反応は金属錯体上で脱水素反応を伴い、連続的なGe-Ge結合形成反応が進行している。白金錯体ではその中間構造の1つである四員環錯体の合成・単離が可能であり、五員環錯体への環拡大反応がゲルミレン(:GeR_2)挿入過程を経て進行することを提案した。これらメタラサイクルは一級ゲルマンと作用させることで脱金属反応が進行し、直鎖状の三、四量体のオリゴゲルマンを単離した。白金やパラジウムでは安定なメタラサイクルを形成するという事実を基に、ニッケル錯体を用いて触媒反応へと応用すると、同様なGe-Ge結合形成反応が進行する。その生成物は様々な分子量をもつポリゲルマンではなく、三、四量体を主生成分とするオリゴゲルマンであった。一般に、三、四量体のオリゴゲルマンの合成は、段階的なGe-Ge結合形成により多段階反応を必要とするが、本研究の遂行により、簡便なオリゴゲルマン合成手法を見出したことになる。
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