研究概要 |
前年度までに合成した{1,2-ビス(ピリジルエチニル)ベンゼン}パラジウム錯体部分を有する24員環クラウンエーテルを均一系錯体触媒として用いた。具体的には溝呂木-ヘック反応の触媒としてこれを用いた。クラウンエーテルに導入されたパラジウム錯体部分の反応活性は、ロタキサンを形成した状態であっても損なわれることはなかった。特に触媒反応で反応点が2つある物質どうしの1:1の反応を検討することによって、反応が1:1で環化した生成物を与えるか、それとも分子間反応を繰り返したポリマーを与えるかを検討した。その結果、特に触媒として、パラジウム錯体部分を含むクラウンエーテル2分子の内孔を、1分子の二級アルキルアンモニウム塩で貫通させた複核錯体構造を有するロタキサンを形成させたものを用いると、単核構造をもつパラジウム錯体触媒を用いた場合よりも1:1で環化した生成物を与えやすことがわかった。この結果は、ロタキサンの内部においては、環状分子が自由に動きつつ、2つのパラジウム部分が環化反応をおこすのに適切な位置関係をとることを示している。 以上のように本研究では、ロタキサン構造を利用した複核遷移金属錯体触媒を開発することに初めて成功した。これは錯体化学に対して、あたらしい複核金属錯体の構築方法を提案したという意義がある。なおかつこのコンセプトによって合成された錯体が、実際に触媒反応において特徴ある性質を示す、という重要な知見を得るに至った。
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