本研究は、ウラン金属錯体を集光配位子により光機能化し、発光挙動および光反応性の制御を目的としたものである。発光性の5f軌道および低原子価アクチニド金属が有する高い還元力を光制御し、新規な発光分子および不活性小分子の新規な活性化反応を開発することが狙いである。平成22年度は、実施計画に沿って、「新規集光配位子の開発」および「ウラン(III)錯体の合成法の確立」を中心に研究を進めた。集光配位子の開発に関しては、これまで進めてきたペンタメチルシクロペンタジエニル(Cp^*)を基本骨格とする配位子に加えて、トリアザシクロノナン(TACN)への縮合多環式芳香族化合物の簡便な導入法を確立することができた。ウラン錯体の合成に関しては、Cp^*系の集光配位子を用いる場合、U(III)Cl_3と配位子前駆体のナトリウム塩との組み合わせが、収率・操作性の観点からベストであることがわかった。さらに、ウランの模擬物質として合成したテリビウム錯体(4f軌道を有する)の発光挙動を系統的に調べ、Cp^*系集光配位子のf-f発光に対する増感効果を定量的に明らかにすることができた。本研究を通して得られた知見は、光機能性ウラン(III)錯体の創製のための基礎となるものである。本年度得られた成果は、PACIFICHEM 2010を含めた学会、討論会で発表した(国際会議2件、国内5件:内2件はポスター賞を受賞)。また、上記成果およびその遂行に伴い派生した成果を、2報の学術論文としてまとめた。
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