本研究において申請者らは、平面状の大環状金属錯体を形成する配位子を側鎖にもつ人工アミノ酸(または人工ジアミン)をデザイン・合成して、それらを複数個連結した金属配位型オリゴペプチド鎖(またはオリゴウレア鎖)を金属錯形成により集積化させることにより、ディスクリートなナノ化学空間をもつ金属錯体型ナノチューブを構築することを考えた。筆者らは今回、大環状金属錯体形成のための配位子として、Cu^<2+>やPd^<2+>などの金属イオンとの錯形成により、直径約5Åの内孔を有する平面性の3+3型環状金属錯体を形成することが期待できるビス(ヒドロキシピロン)誘導体を設計・合成した。UV-Vis滴定およびESI-TOF MSスペクトル測定の結果、このビス(ヒドロキシピロン)型配位子はデザイン通り、Cu^<2+>と3:3型大環状金属錯体を形成することが明らかになった。次に筆者らは、主鎖上に2つのビス(ヒドロキシピロン)型配位子を導入したウレアを合成し、Cu^<2+>イオンとの錯形成を通した三重鎖型ナノチューブの構築を検討した。MeOH溶液中、人工ウレアに対してCu^<2+>を徐々に添加して、UV-Vis滴定をおこなったところ、Cu^<2+>の増加とともに452nmの吸収帯が増加し、人工ウレアに対して2当量のCu^<2+>を添加した時点で変化は収束した。この結果は人工ウレアとCu^<2+>が1:2錯体を形成していることを示唆している。また、ESI-TOF MSスペクトルを測定から、人工ウレア:Cu^<2+>の3:6会合体に由来するシグナルが観測された。以上の結果より、ビス(ヒドロキシピロン)型配位子とCu^<2+>との金属錯形成により人工ウレア鎖同士が会合して、目的とする人工ウレア三重鎖が生成したことが明らかとなった。今後、得られた三重鎖のナノチューブとしての機能性についての評価を行っていく予定である。
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