本研究は、動的かつ柔軟なナノ化学空間の構築を目指すナノポーラス液晶の創製と、それを利用する機能性分子の精密組織化を目的とする。配位化学の知見を活用することで、金属錯体を用いる自己組織化によりディスクリートな環状構造を形成し、その環状構造のポリメリックな分子集積体によって構築される、一義的な内部空間を持つナノポーラスな液晶の開発を行った。 これまでの研究により、ディスクリートな大環状金属錯体の構築方法として二つの方法論を確立することができた。一つは、配位結合を利用して大環状金属錯体を構築する手法である。この方法では、2つのヒドロキシピリドンが互いに60°に配向した配位子を合成し、平面4配位型金属イオンとの配位結合を利用してディスクリートな大環状3核金属錯体を効率良く合成することに成功した。また、これらのサブナノスケールの空孔を持つ大環状金属錯体が基板上でヘキサゴナルに自己集積していることを斜入射X線回折実験や、DSC、偏光顕微鏡観察から明らかとした。また、二つ目の方法論として可逆的な結合を有するサレン構造形成を利用し、非常に効率良く液晶性の大環状金属錯体を合成する手法にも成功した。平面構造を有しながら触媒や発光色素としても知られる機能性分子であるサレンを導入することで、環状構造かららせん構造などの多様な超分子構造の構築に成功することができた。これら二つの手法とも、配位子の角度や置換基の配向・性質から事前設計することで、期待通りに熱力学的に安定な環状構造を形成することがわかった。現在、これらの液晶中のナノサイズの空孔を用いた、分子集積・分子認識・化学反応場としての利用を検討している。
|