今回は主に金属錯体のスピンクロスオーバー現象と原子価互変異性に関する理論研究をおこなった。 トリス(2-アミノメチルピリジン)鉄(II)イオン錯体[Fe(2-pic)_3]^<2+>の磁気的性質は、121 Kを境にして変化する。この錯体は、121 K以下の温度では主配置として低スピン状態(一重項状態)をとり、それ以上の温度では高スピン状態(五重項状態)をとる。スピン転移現象は、熱の他に、光の照射や圧力の変化などによっても生じる。熱によるスピン転移現象のメカニズムを理論的に解析している例は少ない。そこで本研究では、[Fe(2-pic)_3]^<2+>錯体の熱的に生じるスピン転移現象のメカニズムを、B3LYP^*法を用いて理論的に検討した。 外部刺激により錯体の中心金属と配位子の間で電子のやり取りが行われ、金属価数とスピン状態同時に変化する現象は原子価互変異性と呼ばれ、1980年にコバルト錯体において初めて確認された。しかし、その機構の詳細は、未だに明らかといない。そこで我々は、原子価互変異性の機構を量子化学計算により検討した。特に、ポテンシャルエネルギー曲面の交差領域に着目し、その最小点(MECP)について考察した。 これらの結果はすでに論文として発表済みである。
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