酸素活性化金属酵素による選択的四電子酸素還元反応は、高効率な酸化触媒、燃料電池の酸素極触媒において重要な化学である。選択的酸素活性化反応機構の解明には、反応過程に生じる中間体の分子構造、電子状態、反応性の相関についての理解が必要である。一般に、反応中間体は熱、分光解析のための光照射に対して非常に不安定であり、研究が困難なことが多い。ヘムー(ヒドロ)ペルオキサイド種は、酸素活性化機能を有するヘム蛋白質において普遍的に生成し、酵素活性化において鍵と成る反応中間体と考えられているが、その分光学的研究例は希有であった。本年度の研究においては、この酸素活性化において鍵となる反応中間体の分光解析のために、不安定試料を液体窒素凍結下にてラマン分光測定可能な装置系を開発した。このラマン分光装置を用いて、合理的に設計したヘムモデル化合物において調製したヘムー(ヒドロ)ペルオキサイド種の分子振動構造の解明に成功した。ヘムー(ヒドロ)ペルオキサイド種は、鉄三価-スーパーオキサイド種を液体窒素凍結下、γ線照射によって生じる電子による還元により分光学的に観測された例は報告されていたが、その種を溶液中で選択的に発生させ研究された例は本研究が世界初である。 また、エンドオン型ヘムーペルオキサイド種も酸素活性化において重要な反応中間体であるが、この不安定化学種の安定化のために、新たに立体的に込み入った側鎖を接合したポルフィリンを合成して、反応中間体を捕捉してラマン分光により解析した。酸素活性化ステップで鍵となる化学種、低スピン6配位のエンドオン型ペルオキシ種を初めて分光学的に同定することに成功した。
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