選択的酸素活性化反応機構の解明には、反応過程に生じる中間体の分子構造、電子状態、反応性の相関についての理解が必要である。昨年度の成果をもとに、酸素活性化において鍵となる化学種(鉄-(ヒドロ)ペルオキシ種)の分光学的解析をしたほか、酸素活性化において鍵となるプロトン共役電子移動を可能にするヘム錯体の合成および分光学的解析をした。 酸素活性化ヘム酵素においては、ヘム鉄と酸素が結合を生成した後、電子移動反応がおこる。この電子移動反応に対する環境の効果について検討するために、溶媒の極性および対カチオン存在の有無によるヘム鉄-酸素錯体の一電子還元機構について検討した。極低温下77Kにおいてヘム鉄-酸素付加体をγ線照射して得られる還元化学種について各種分光法(電子スピン共鳴および共鳴ラマン分光)により検討した。その結果、低極性溶媒中では、鉄二価スーパーオキシ体が生成するのに対し、高い極性溶媒中においては、鉄三価ペルオキシ体が生成することを明らかにした。スーパーオキシ種およびペルオキシ種は原子価互変異性体であり、ヘム周辺環境により電子状態に違いが生じることは理論化学的な解析と一致している。 核共鳴非弾性散乱分光法をもちいて酸素活性化ヘム錯体中の鉄の低振動モードの解析を行った。従来、共鳴ラマン分光法では明らかにできなかった、振動モードの解明に寄与し、ヘム微細構造と酸素活性化反応性の相関について新たな知見を得た。
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