C_5Me_4SiMe_3基を有する四核イットリウムヒドリドクラスター[(C_5Me_4SiMe_3Y)_4(μ-H)_8]は不飽和基質に対する高い還元能やユニークな構造・反応性などで近年注目を集めている。このクラスターは単核のハーフサンドイッチ型ビス(アルキル)錯体[(C_5Me_4SiMe_3)Y(CH_2SiMe_3)_2(THF)]と水素との反応によって生成するジヒドリド錯体[(C_5Me_4SiMe_3)YH_2(THF)]の四量化によって得られるが、その四核骨格の構築には配位子の嵩高さや反応溶媒が影響していると思われる。そこで本年度は、反応に及ぼすCp配位子の置換基や反応溶媒の影響を詳細に検討した。 C_5Me_4SiMe_3基より立体的に小さなC_5Me_5基を有するイットリウムのビス(ベンジルアミン)錯体[(C_5Me_5)Y(CH_2C_6H_4NMe_2)_2]をTHF溶媒中、水素と反応させることにより、五核の希土類ヒドリドクラスター[{(C_5Me_5)Y}5(μ-H)_10(THF)_2]が得られた。構造はX線構造解析で確認し、金属骨格はtrigonal bipyramidal構造であることがわかった。また、この反応をトルエン中で行うと五核ヒドリドクラスターはまったく生成せず、ベンジルアミン配位子が残った四核錯体[(C_5Me_5)_2Y_2(CH_2C_6H_4NMe_2)H_3]_2が得られた。これらの結果は立体的により小さなC_5Me_5基を用いることにより、より高次のクラスター生成を誘発するが、その生成には中間体"[(C_5Me_5)YH_2(THF)]"を安定化するTHFの配位が必要であることを示唆している。 更なるクラスターの高次化を目指して、立体的により小さなC_5Me_4H基を有するビス(ベンジルアミン)錯体[(C_5Me_4H)Y(CH_2C_6H_4NMe_2)_2]と水素の反応をTHF溶媒中で行ったところ、予想に反して四核のヒドリドクラスター[{(C_5Me_4H)Y}_4(μ-H)_8(THF)_4]が得られた。これはCpの立体障害が小さくなることで金属回りの配位空間が広がり、中間体"[(C_5Me_4H)YH_2(THF)]"にTHFが配位したまま自己集合したためと考えられる。 イットリウム金属のみならずイオン半径の異なる希土類金属、Cp配位子の多様性、さらにクラスターの核数など、これらの組み合わせを考えると本研究で開発される新規希土類ヒドリドクラスターからは極めて多彩な化学が展開できるものと期待される。
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