研究課題
磁性誘起マルチフェロイックスの代表例であるペロブスカイト型RMnO_3(R:希土類金属)は、RがDyの場合は分極を有するサイクロイド反強磁性相を示すことが知られているが、RがDyよりも小さくなるとE型反強磁性転移を示し、交換歪みによる巨大な分極を生じることが指摘されていた。しかしながら、それらは高圧安定相であるため詳細な研究は遅れていた。特に構造解析や物性測定を行うことが可能なほど大きな単結晶は得られていなかった。本年度は、5.5万気圧の高圧下においてつくりだされた水熱的な環境を用いることで、ペロブスカイト型YMnO_3の単結晶(最大0.6mm角)を育成することに初めて成功した。得られた単結晶を用いて磁化測定や誘電測定を行い、大きな磁気異方性や、a軸方向(空間群Pbnm)に生じる0.2μC/cm^2程度の大きな電気分極など、E型反強磁性相から期待される電気磁気特性及びその異方性を確認することに成功した。また、電気分極の外部磁場依存性から、わずかなサイクロイド反強磁性相が存在し、E型反強磁性相と拮抗していることが示唆された。このことは、昨年度報告したRMnO_3の電気磁気相図において、YMnO_3がサイクロイド相とE型相の相境界近傍に位置していることに起因していると考えられる。さらに単結晶を用いた放射光X線回折実験を行い、E型反強磁性相において交換歪みに由来した10^<-3>Å程度の非常に小さい原子変位を確認することに成功し、点電荷モデルから0.5μC/cm^2という実験値に近い分極値を再現した。本研究は、磁性誘起の強誘電的原子変位を、放射光を用いて直接観測した初めての例であり、磁性誘起マルチフェロイクスにおける分極のメカニズムの解明、及び誘電特性の向上につながることが期待される。
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http://www.qpec.t.u-tokyo.ac.jp/ishiwata_lab/index.html