研究概要 |
本年度は、昨年度に引き続き(1)ベシクルフュージョン法により作製した薄膜のキャラクタリゼーション、(2)作製した脂質膜に対する抗酸化剤(クルクミン)の分配挙動の観察、を行い、続いて(3)脂質膜中に分配したクルクミンの酸化還元挙動の観察、を行った。 (1)中性リン脂質であるDMPC(1,2-dimyristoyl-sn-glycero-3-phosphocholine)のベシクル水溶液をガラス薄板(カバーガラス)上に展開させた。この際、コレステロールの添加により作製した膜の安定性の向上を図ったが、濃度条件の制御が容易でなく安定になりすぎる結果となったため、昨年度と同じくDMPCのみで作製した膜を用いて以下の検討を行った。 (2)ガラス板上に形成させたDMPC薄膜に対して、脂溶性抗酸化剤(還元剤)であるクルクミンのエタノール溶液を送液したところ、クルクミンが脂質膜内に浸透したことを示す吸収スペクトル変化が観察された。通常の透過スペクトルでは観察できないほど膜厚が薄いが、光導波路を利用した多重反射により感度を高めることができ、観察することに成功した。 (3)クルクミンは酸化されることで435nm付近の吸光度が減少することが分かっている。これを利用して脂質膜内に存在するクルクミンが酸化されていく様子を追跡することが可能である。フェリシアン水溶液の送液では、クルクミンの酸化は観察されなかった。しかし、過酸化水素水溶液を送液すると、クルクミンの吸収スペクトルの減衰が観察され、脂質膜内に存在するクルクミンが、脂質膜/水溶液界面を介して過酸化水素により酸化されていることが推察された。反応速度の見積もりは現在検討中であるが、濃度の評価が困難であり慎重に解析する必要があると考えている。
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