研究概要 |
走査型トンネル顕微鏡(STM)は,原子レベルの表面局所分析が可能である一方,試料分子や原子の識別・同定はできない.それに対し,我々は,従来のSTM金属探針を化学的に修飾した分子探針を用いることにより,STMに化学選択性を付与できることを見出した.これは,分子探針との電子波動関数の重なりをもたらす化学的相互作用(水素結合,配位結合,および電荷移動相互作用)を通じ,特定の官能基・化学種においてトンネル電流が増加することに起因する.本研究では,分子探針を用い,カーボンナノチューブ(CNT)の原子欠陥に対する可視化検出法を開発した. 従来の金属探針を用いた際には,CNTの欠陥は観察されなかった.一方,電子供与性である4-aminothiophenol (4AT)探針を用いた際には,原子分解能が達成できたのみならず,原子欠陥が選択的に明るい輝点として観察された.電子供与性分子はCNTと電荷移動相互作用を形成することが知られており,さらに,これらの分子はCNTの構造欠陥に優先的に結合することが示されている.このことから,4AT探針を用いて観察を行うことにより,4AT-CNT欠陥との電荷移動相互作用を通じてトンネル電流が増加し,CNT欠陥が選択的に可視化できたと考えられる. 電子供与性分子探針により,CNT原子欠陥に対する初めての可視化検出法を開発した.本手法により,欠陥が関与するCNTの物性の基礎的理解,およびこれを利用した新規CNT電子デバイスの創製が可能になると期待される.
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