本研究では、細胞内における活性酸素種(ROS)を検出可能な新しい蛍光試薬の開発を目的としている。前年度までに、蛍光基ユニットであるシアニン化合物(Cy5)に対し、酸化還元ユニットであるキノン化合物(ナフトキノン:NQ)を結合した新規ROS計測用蛍光試薬(Cy-NQ)の合成、並びに同定を行った。そこで本年度は、まず得られた蛍光試薬Cy-NQの基礎特性について検討を行った。 最初に吸収スペクトル測定を行ったところ、470nm付近にキノン化合物に由来すると推察される吸収帯を確認することができた。次に、絶対PL量子収率測定装置を用いて、クロロホルム、アセトニトリル、メタノール、エタノール、ジメチルスルホキシドの各溶媒中において、Cy-NQとメチル化Cyの蛍光量子収率の測定を行った。その結果、Cy-NQの蛍光量子収率がメチル化Cyの蛍光量子収率と比較して十分に減少しており、シアニンユニットとキノンユニットの間で期待した電子的な相互作用が生じていることが示唆された。そこで次に、Cy-NQに対して、生体中にも存在する還元剤であるアスコルビン酸を添加した。その結果、添加したアスコルビン酸の濃度に対応して、蛍光強度の増大が生じることが明らかとなり、Cy-NQが生体内酸化還元反応を検出する上で有用であることが期待できることが示唆された。次に、Cy-NQの細胞導入についても検討した。その結果、Cy-NQを生細胞に導入した場合には、死細胞に導入した場合と比較して細胞質から強い蛍光が観測され、細胞内物質によるCy-NQの還元が生じたことが示唆された。
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