本研究では、細胞内に存在する活性酸素種(ROS)の総体を検出するための新しい蛍光試薬の開発を目的としている。前年度までに、蛍光基ユニットであるシアニン化合物(Cy5)に対し、酸化還元ユニットであるキノン化合物(NQ)を結合した新しい総体的ROS計測用蛍光試薬(Cy-NQ)を合成し、その性能検討を行った。そこで本年度は、目的とした蛍光試薬をより系統的に開発するための方法論として、ペプチド型総体的ROS蛍光プローブの開発について検討を行った。まず、ペリレンビスイミド化合物をブロモ化し、これにBoc基とOBzl基で保護されたチロシン(Boc-Tyr-OBzl)を反応させ、両者を結合した。次に、OBzl基を脱保護し、スクシンイミド化Fmoc(Fmoc-OSu)を反応させることにより、Fmoc保護されたペリレンビスイミド修飾チロシン(Fmoc-Tyr(PBI)-OH)を得た。一方、1-クロロアントラキノンに対し、Boc-Tyr-OBzlを反応させることで両者を結合した後、Fmoc-Osuを反応させることにより、Fmoc保護されたアントラキノン修飾チロシン(Fmoc-Tyr(AQ)-OH)を得た。上記のようにして得られた蛍光基ユニットFmoc-Tyr(PBI)-OHと酸化還元ユニットFmoc-Tyr(AQ)-OHをペプチド固相合成法により結合し、目的とした蛍光プローブ、PBI-AQを得た。PBI-AQに還元剤であるNaBH_4を添加したところ、62%の蛍光強度の減少が確認され、PBI-AQのROS計測用蛍光試薬としての有用性が確認できた。また、Fmoc-Tyr(PBI)-OHに親水性アミノ酸、あるいは親水性高分子であるポリエチレングリコールを結合したところ、当該蛍光基ユニットにおける水溶性の大きな向上が観測され、ROS計測用蛍光試薬の水溶化の戦略として有効であることが示された。
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