本年度は、SP励起に基づく脱離イオン化機構に関わる要素(CT、EM、Heat効果)の抽出を試みた。まず、CT効果の抽出には、申請者が他の研究からCT効果の大きさを見積もった色素分子を測定試料としてLDI-MSを行った。得られた各色素分子のイオン信号強度は見積もったCT効果の大きさと正の相関を持ち、CT効果の寄与を明らかにした。 次に、金ナノ微粒子表面にスペーサーとしてアルカンチオールを修飾し、CT効果を遮断した。上記と同様の実験を行った結果、各色素分子のイオン信号が強く得られた上、その信号強度はアルカンチオールの分子長(金属表面からの距離)に強く相関があった。これはEM効果のみでも強い寄与があることを意味する。一方で、試料分子の解離性に関しては、金属表面に近接するほど大きくEM効果のみでは実用性に乏しいことも示唆された。更に詳細に距離依存性を信号強度および解離性から検討したところ、金属表面からの生じる電子衝突も関与していたことが示唆された。これは上記のCT効果と異なり、高いエネルギーを持ったエネルギー供給であり、実用性にはその抑制も検討すべきである。 一方、本手法の脱離イオン化機構におけるHeat効果の役割を議論するため、SP効果の大きさを一定にする必要がある。そこで、粒子径が異なる2種類の金ナノ微粒子を用いて、マススペクトルのレーザーフルエンス依存性を比較した。その結果、供給される熱量の大きさが脱離イオン量に関連性があった。更に詳細にするために、熱供給に鋭敏に反映されるイオン性分子を測定した結果、SP励起に起因するHeat効果により脱離量が著しく増大した。以上から、本手法の脱離イオン化機構においてHeat効果は脱離機構に対して重要な役割を担っていることを示した。 以上の成果は、SP励起に基づく脱離イオン化機構を理解する上で重要な知見となりうることが期待される。
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