研究概要 |
ホウ素化合物の比色定量法は、クロモトロープ酸やH-レゾルシノールなどの有機定量試薬による方法が代表的であるが、これらの試薬を用いた呈色反応は遅いため、試料溶液の加熱などを必要とするなど簡易比色定量法としては問題点が多い。一方で、一般にホウ酸やボロン酸は1,2-ジオールと迅速に安定なキレート化合物を生成するが、反応の際に可視光領域での吸収スペクトル変化がほとんど見られず、比色定量に用いることができない。そこで、本研究では、ホウ素の比色分析部位として「金属錯体検出場」を導入する。そして、水溶性ホウ素化合物(ホウ酸)との反応の際に誘起される金属錯体検出揚の分光特性変化を利用した比色分析法を確立することを目的とする。また、金属錯体の酸化還元特性を利用した新しいホウ素センシングについても検討を行う。本年度は初年度として、ホウ酸との反応性が高いジオール骨格を有する1,10-フェナントロリン-5,6-ジオールが配位した第一遷移系列金属錯体を複数合成し、ホウ酸との反応に伴う分光特性変化を検討した。その結果、この配位子を有する銅(II)錯体について、水溶液中におけるホウ酸との反応の際に溶液色の変化が認められた。 今後、この銅(II)錯体の溶液内挙動と、ホウ酸の検出反応機構を詳細に検討し、分析条件の最適化を行うとともに、錯体の水溶性の向上を目指した分子開発を行う。一方、1,10-フェナントロリン-5,6-ジオンが配位した錯体は比較的簡便に合成できるが、この錯体を電気化学的に還元すると上記のジオール錯体が生成することが電気化学測定より示唆された。そこで、このような金属錯体の還元反応を経由したホウ素センシングについても、今後具体的に検討を進めていく予定である。
|