研究概要 |
前年度に合成した1,10-フェナントロリン-5,6-ジオールが配位した種々の金属錯体について、水溶性ホウ素の比色分析条件を検討した。銅(II)錯体については、pH9~10程度で最もホウ酸と反応して吸収スペクトルが変化するが、これらのpHでは銅(II)錯体自身が徐々に加水分解することがわかった。そのため、銅(II)錯体によるホウ素の比色定性分析は可能であるが定量分析法に展開することは困難であると結論した。その他の金属錯体とホウ酸との反応では、吸収スペクトル変化は比較的小さく、比色分析は困難であることがわかった。一方で、ジオール骨格を有する類似の配位子である2,2'-ビピリジン-3,3'-ジオールについて金属錯体の合成とホウ素の比色分析を試みたところ、特に白金(II)錯体については混合溶媒中でホウ酸と反応し、光特性が変化することを確認した。さらに、二つのオキシム配位子を有する金属錯体を合成し、隣り合うオキシム基による擬ジオール骨格を有するホウ素検出金属錯体の開発を行った。その結果、合成した銅(II)およびニッケル(II)錯体は水への溶解度が比較的高く、さらにホウ酸との反応で起こりうるオキシム水酸基の酸解離平衡の際に光特性が大きく変化することが明らかになった。このことは、水溶性ホウ素の比色分析に応用できる可能性を示唆するものである。本年度は、当初計画していた1,10-フェナントロリン-5,6-ジオール錯体によるホウ素比色定量の問題点が明らかになった一方で、より効果的にホウ素比色定量できる金属錯体の分子設計・開発に関する有用な知見を得た。最終年度である次年度には、本年度新たに開発した上述の金属錯体試薬についてホウ素比色定量条件の最適化を行うとともに、これらの金属錯体試薬の酸化還元挙動とホウ素定量能との相関を検討し、酸化還元ホウ素センシングを試みる予定である。
|