多核金属クラスターは基質の多点活性化、協同的な効果、金属間での電子移動なども期待できることから興味が持たれており、さかんに研究されている。しかし、「単核錯体」ではなしえない「多核錯体」ならではの触媒的な変換反応の例は限られているのが現状であり、その可能性を引き出しているとは言い難い。本研究では、新しい骨格を有するヘテロ原子架橋複核錯体の合成及び新規な触媒的分子変換反応の開発を目標に研究を推進する。今年度は新たに合成した異種ヘテロ原子架橋多核金属錯体の変換反応を行った。さらに、前年度までに合成した二核ルテニウム錯体を用いた触媒反応への展開も行った。異種ヘテロ原子架橋二核ルテニウム錯体としてはそれぞれのヘテロ原子の持つ特性を併せ持つことができ、ヘテロ原子の組み合わせを変えることで金属間距離や電子状態を制御できる。また、架橋ヘテロ原子が基質の活性化に利用することも可能であり、新しい変換反応への利用も期待できる。しかし、その合成は同種ヘテロ原子架橋錯体に比べ。困難である。そこで、塩素架橋二核ルテニウム錯体に対し、段階的に架橋原子を導入する合成経路を設計した。昨年度までに我々のグループが合成した、ホスフィド-ヒドロスルフィド混合架橋型二核ルテニウム錯体を用いた変換反応を行い多様な構造や電子状態を持つホスフィド-スルフィド混合架橋二核及び四核ルテニウム錯体の合成に成功した。また、触媒反応への展開として、エチニルシクロプロパンをC3ユニットとして用いたアルデヒドおよびイミンとの[3+2]環化付加反応を検討したところ、予想通り反応は進行し、テトラヒドロフラン誘導体およびピロリジン誘導体が高収率で得られた。予備的な理論計算の結果、ルテニウム-アレニリデン錯体を鍵中間体として反応が進行していることが示唆されている。
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