本研究では、基質となるカルボニル化合物(ケトン、アルデヒド、及びイミン)と反応剤となる有機金属試薬及び炭化水素の双方を複合的に活性化できるアート型金属塩触媒(触媒的反応剤)を設計・開発することを目的とした。特に、「強力な炭素求核能を活用するケトン類への触媒的グリニャール付加反応(タイプA触媒)」、及び「強力な塩基性を活用するカルボニル化合物への触媒的不斉求核付加反応(タイプB触媒)」を推進できる高活性触媒を創製した。当初の計画通り、平成22年度はタイプB触媒の開発に重点をおき、研究を実施した。その結果、タイプB触媒として、不斉マンニッヒ型反応に有効な「キラルリン酸カルシウム塩触媒」と「キラルマグネシウムビナフトラート塩触媒」を開発した。これらの触媒は基質と求核剤を同時に活性化することで、既存の触媒には見られない非常に高い触媒活性と立体選択性が発現した。一方、エステル交換反応に有効なランタンイソプロポキシド(III)-ジエチレングリコールモノメチルエーテル触媒を開発した。本ランタン触媒は触媒活性が高く、単純なカルボン酸エステルのほか、反応性の低い炭酸ジメチル及びメチルカルバメートにも有効で、極めて実用性が高い。タイプA触媒も継続して実施し、触媒的グリニャール付加反応の塩効果を明らかにして、高活性アート型触媒の構造及び機構解明を行った。また、例がない不斉第二級アルキル化反応に成功したほか、不斉第一級アルキル化による植物性天然物(ginnol)の合成にも成功した。
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