前年度までに、新規光学活性アリールアミノホスホニウムボレートの合成法を確立し、そのBronsted酸触媒活性の評価を行った。その過程で、本分子が電気的に中性のニトロオレフィンを効果的に活性化し、従来型のBrensted酸では困難であった塩基性求核種を用いる共役付加反応を高エナンチオ選択的に実現することを見出した。本年度はこの知見を基に、引き続きニトロオレフィンへのヘテロ共役付加反応について検討を行い、高エナンチオ選択的なサルファ共役付加反応の開発に成功した。ここで得られた生成物は、これまで合成し難かった光学活性タウリン誘導体の有望な前駆体である。 さらに並行して、アミノホスホニウム中心の電子密度の制御による酸性度の向上を図り、広範な合成反応へ本触媒系を展開することでカチオン性のBronsted酸触媒に特有の触媒機能性の明確化を目指した。すなわち、酸性プロトンに直接結合する窒素原子と共役したリンカチオンに電気陰性度の高い酸素原子を導入することで、より高い酸性度を示す新たな分子構造を設計・合成した。また本分子の触媒機能を、極めてシンプルかつ有用な反応であるにもかかわらず、一般に強い酸が必要とされ立体選択性の獲得が難しいとされてきた、エノラートの触媒的不斉プロトン化反応により評価し、高エナンチオ選択的に保護アミノ酸を得ることに成功した。本法の実現は、最小の原子である水素を制御するための新たな方法論の提案につながるのみならず、これまで積極的に注目されることのなかった、カチオン性Bronsted酸の特性を利用した反応開発の端緒になると期待される。
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