ハロゲン化物の代わりに、アニソール誘導体を用いる触媒的分子変換反応の開発を目指して以下の検討を行った。 (1)メトキシ基の還元的切断反応:ニッケル(0)触媒及びトリシクロヘキシルホスフィン存在下、メトキシナフタレンとヒドロシランを反応させるとメトキシ基が水素に置き換わった生成物が効率よく得られることがわかった。メトキシ基以外にも、エトキシ基やベンジロキシ基も本条件下、効率よく切断され還元反応が進行する。本反応はナフタレンのほかにもキノリンやフェナントレンなどの縮合多環系化合物に対して適用可能であり、穏和な条件下でメトキシ基を除去することが可能である。一方、アニソール誘導体では反応性が著しく低下するが、オルト位にエステルやピリジンなどの配向基を導入することで効率よく反応が進行する。このことにより、複数のメトキシ基の位置選択的な除去が可能となる。さらに、メトキシ基以外にも、通常不活性なフェニルピバレート誘導体も本触媒系に適用可能であり、ピバロキシル基が還元的に除去可能である。メトキシ基やピバロキシ基は、芳香環のC-H結合の官能基化反応において、配向基として作用することが知られているが、本反応と組み合わせることにより、除去可能な配向基としての利用が可能となる。 (2)含窒素ヘテロ環化合物に結合したメトキシ基のアミノ化反応:前年度に、メトキシナフタレンのメトキシ基の切断をともなったアミノ化反応が進行することを明らかにしている。しかし、その反応は単環の誘導体には適用できなかった。今年度の検討により、ピリジンやキノリンなどの電子不足性含窒素複素環に結合したメトキシ基は、ニッケル触媒とN-ヘテロサイクリックカルベン配位子を用いることでアミノ化可能であることを見出した。
|