大環状ポリマーは、多くの場合、鎖状ポリマーの両末端を何らかの化学反応により閉環することで得られる。すなわち、最後にポリマーの閉環を伴わない方法はあまりない。特にビニルモノマーの環拡大型重合に関してはほとんど報告例がない。そこで本研究では、汎用のビニルモノマーにも適応可能な環拡大型重合を開発することを目的として研究を行った。以下に成果を記す。 1)安定ニトロキシドラジカルを用いたリビングラジカル重合(NMP)の開始剤として機能するアルコキシアミン誘導体に、環状構造の導入を行った。はじめにトリメチルシリル基で保護したアルキンを有するニトロキシドラジカル誘導体を合成した。これをクロロメチルスチレンに反応させてアルコキシアミン誘導体とした。続いて4-アジド安息香酸との反応およびトリメチルシリル基の脱保護反応を行い、分子内にアジドとアルキンを有するアルコキシアミン誘導体に変換した。最後に銅触媒を用いたアジドーアルキン/クリック反応を行い、目的物である環状NMP開始剤を得た。 2)環状NMP開始剤によるスチレンの重合を行った。重合は溶媒にフルオロアルコールを用い125℃で行った。生成物の構造解析を行った結果、本重合系、すなわち環状NMP開始剤を用いた重合系は、鎖状NMP開始剤の系に比べて、非常に高分子量のポリマーを与えることが明らかとなった。この結果より本重合系では、i)環拡大重合が進行し大環状ポリマーが生成し、同時に、ii)鎖状のアルコキシアミンを用いた系では起こらない反応、すなわちラジカル環交差反応が生じ、結果として環がさらに拡大した分子量の大きなポリマーが生じたと考えた。生成物の質量分析および生成物を開環したサンプルの構造解析からi)およびii)がそれぞれ支持された。
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