不均一系オレフィン触媒はその工業的重要性から長年に渡り精力的に研究されてきたが、触媒成分の複雑さや著しい不均一性が触媒構造や重合機構に関する分子レベルでの知見の獲得を妨げてきた。本研究の目的は、均一な活性点構造を有するモデル触媒と第一原理計算を相乗的に組み合わせることで、触媒表面や反応機構に対する確度の高い分子レベルイメージを構築することである。 本年度は、活性成分であるTi種がMgCl_2表面上に均一に分散されたTiCl_3/MgCl2 Ziegler-Nattaモデル触媒を調製し、Ti種の分散状態と重合性能の関係を明らかにした。さらに、プロピレンの立体選択重合に必須となるドナー(エーテル・エステル等のルイス塩基化合物)の活性点への作用機構を検討し、ドナーが非立体特異的な孤立Ti種をドナーの種類に固有な高立体特異的活性点に最高効率で変換していることを実験的に発見した。この良質な実験結果をインプットとして網羅的な密度汎関数計算を行い、「ドナーがTi種とMgC12(110)表面上でランダムに共吸着した結果、Ti種の電子密度を向上し、且つTi種近傍に高イソ立体特異的反応空間を選択生成する」という"共吸着モデル"の提唱に至った。共吸着モデルによって提唱される活性点は、得られた全実験結果を説明するだけでなく、ドナーによる分子量の向上や位置特異性の向上といった、長年機構が不明であった現象を解明した。 本研究により提唱された共吸着モデルは、不均一系Ziegler-Natta触媒において最重要なドナーの役割に対する初めての分子レベルイメージであり、これによって、これまで経験的に行われてきたドナーの開発を第一原理計算の立場から著しく加速することが可能となる。
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