研究概要 |
生体は光学活性物質の集合体であるので、光学異性体に対して異なる生理活性を示すことが多い。特に、キラルな医薬品の場合、光学異性体間で薬効が大きく異なるものがある。したがって、光学活性体の簡便かつ正確な「キラリティーの検出」、「絶対配置の帰属」、「光学純度の決定」などを可能にする方法の開発が強く望まれている。本研究では、キラル化合物の高感度キラリティー識別を目指して、精密に制御されたらせん構造を有する多糖をテンプレートに利用して、蛍光性のピレニル基をらせん状に配列した新規セルロース誘導体を合成し、その不斉識別材料への応用について検討を行った。 1-ピレン酪酸、2-ピレンカルボン酸からそれぞれ酸塩化物を合成し、セルロースと反応させることでピレニル基を導入したセルロース誘導体の合成を行った。得られたセルロース誘導体の蛍光スペクトルを測定したところ、1-ピレン酪酸エステルとして導入した誘導体(poly-1)は、ピレニル基の二量体形成に由来するエキシマー蛍光性を示し、2-ピレンカルボン酸エステルとして導入した誘導体(poly-2)ではピレニル基単独のモノマー蛍光性を示すことが明らかになった。 得られた誘導体をキラル固定相としてシリカゲル上に担持し、カラムに充填後、溶離液にヘキサン/2-プロパノール(90:10)を用いた高速液体クロマトグラフィーにより光学分割能の評価を行った。その結果、poly-1及びpoly-2はともにキラルなアントラセン化合物や1,1'-bi-2-naphtholなどの多環芳香族化合物に対して良好な光学分割能を有することを見出した。さらにpoly-1のエキシマー蛍光は、1,1'-bi-2-naphtholなどのゲスト化合物を添加することで効率的に消光することが分かった。以上の結果は、poly-1を用いて蛍光測定によるキラリティーセンシシグが可能であることを示唆している。現在、(S)-1,1'-bi-2-naphthol及び(R)-1,1'-bi-2-naphtholを光学活性ゲストに用いてpoly-1の消光度に違いが生じるか検討を続けている。
|