汎用高分子であるポリメタクリル酸メチルのシンジオタクチック体(st-PMMA)は、トルエン中でらせん構造を形成し、その内孔にC_<60>やC_<70>などのフラーレン類を取り込み、結晶性の包接錯体を形成する。本年度はフラーレン以外のゲスト分子を探索し、st-PMMAらせんのホスト分子としての汎用性について検討した。その結果、ピレンやフェナントレンなどの多環式芳香族炭化水素がst-PMMAらせんに包接され、新規な結晶性高分子錯体を形成することを見出した。ピレンのトルエン溶液にst-PMMAを加え、加熱により均一溶液とした後、室温まで徐冷することでゲル化させた。このゲルを室温で12時間、さらに160℃で1時間減圧乾燥することでst-PMMA/ピレン包接錯体(ピレン濃度19wt%)フィルムを得た。フィルムのX線測定では、包接錯体の結晶構造に由来する反射が観測された。また、示差走査熱量計(DSC)測定では、錯体結晶の融解による吸熱ピークが181℃に見られた。包接錯体の分子モデリングにより、包接されたピレンはst-PMMAらせん中に一次元に配列していることが強く示唆された。そこで、st-PMMA/ピレン包接錯体フィルムの蛍光測定を行ったところ、低濃度であってもピレン分子の接近によるエキシマー発光が観測され、ゲスト分子の一次元配列を支持する結果が得られた。 st-PMMAの側鎖エステル基を部分官能基化できれば、機能材料としてのさらなる応用が期待できる。我々は、立体特異性アニオン重合により立体規則性ポリメタクリル酸(PMAA)を合成し、その側鎖を高分子反応によりエステル化することでst-ポリメタクリル酸エステルを得る手法について検討した。非プロトン性極性溶媒中ジアザビシクロウンデセン存在下におけるPMAAの一級及び二級ハロゲン化アルキルによるエステル化反応は室温で定量的に進行し、プロパルギル基などの官能基を容易に導入できた。また、エステル化反応を2段階で行うことでst-ポリメタクリル酸エステルランダム共重合体の合成にも成功した。
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