研究概要 |
従来、我々はラジカル高分子の安定かつ迅速な電子授受能に着目し、二次電池電極活物質として展開してきた。本研究では、電解液のないドライな有機薄膜素子、特に素子作製の簡便な単層素子においてメモリ特性を発現させるべく、構成材料の分子設計・合成と素子設計を実施した。ラジカル高分子のみ、またはイオン対(電解質塩やイオン液体)のみから成る薄膜単層素子では、電流電圧(I-V)特性においてOn-Offスイッチ挙動を示さないが、ラジカル部位とイオン対を混合することによりメモリ特性が発現することを明らかにした(Chem.Lett.2009)。また、ポリマーブレンド型単層メモリ素子においてマクロ相分離がもう一つの鍵であることを見出した。 そこで、ミクロ相分離構造に2つの機能(ラジカル、イオン対)を導入することで、再現性高く高密度化することが可能になると想定し、(1)TEMPO置換ブロック共重合体、(2)TEMPO/イオン対含有ブロック共重合体、(3)ブロック共重合体へのTEMPO-イオン液体の選択的取り込み、の3つのアプローチで有機薄膜素子を作製し、メモリ特性に不可欠な構成要素を検討した。具体的には、ニトロキシドを用いた精密ラジカル重合により(1),(2)を合成し、(3)では、ポリスチレン-b-ポリエチレンオキシド(PS-b-PEO)のPEOドメインにイオン液体が選択的に取り込まれることを利用して、TEMPO-イオン液体を選択配置することに成功した。ミクロドメイン構造(ラメラ、シリンダー、スフィア)およびその配向性(水平、垂直、ランダム)を顕微鏡観察(TEM,SEM,AFM)および示差熱分析により評価するとともに、スフィア型において書き換え可能なメモリ素子特性の発現を見出した。今後、ミクロ相分離構造とメモリ特性の相関を詳細に検討していく予定である。
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