本研究では、スパイダーシルクの有する優れた力学特性に着目し、人工ペプチドの自己組織化概念を合成高分子システムとハイブリッド化させるという新しい発想のもと、人工スパイダーシルクの開発を行うことを目指している。本年度得られた主たる成果を以下にまとめる。 1結晶性β-シートドメインとなる(Ala)_8の両端に、非晶性のフレキシブルなランダムコイル部となる親水性のポリアクリル酸(PAA)とポリエチレングリコール(PEG)をそれぞれ導入した新規トリブロック型ペプチド-ポリマー・ハイブリッド(PAA-block-(Ala)_8-block-PEG)(1)の合成に成功した。尚、合成はPEG結合型固相合成樹脂を用いて、通常のFmoc固相合成法と原子移動ラジカル重合(ATRP)法を組み合わせにより達成した。^1H-NMRおよびMALDI-TOF MSスペクトルによりキャラクタリゼーションを行い、PEG鎖長が70、PAA鎖長が20-120の種々のトリブロックポリマーを得ることに成功した。 2トリブロック型ペプチド-ポリマー・ハイブリッド1の水溶液系での二次構造特性ならびに自己集合特性をCDおよびFTIRスペクトル、AFM測定等を用いて明らかにした。その結果、PEGセグメントと同程度のPAAセグメントを有する1は、特定のpH領域においてPEG-PAA間の高分子間相互作用が効果的に働き、β-シート結晶構造を自己組織的に形成することを見いだした。 3トリブロック型ペプチド-ポリマー・ハイブリッド1の水溶液をキャストすることでフィルムの作成に成功した。また、フィルム系での高次構造(ナノ構造)をCD・FTIR・XPS・AFM・SEM・TEM等を用いて解析し、β-シート結晶を含むスパイダーシルク様構造を有することも明らかにした。
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