本研究は、高分子電解質と界面活性剤からなる複合体(PSC)の誘電緩和測定を行い、その緩和の帰属を明らかにすることを目的とする。PSCはラメラ構造などの秩序高いミクロ構造を有することが知られており、光学・電気材料への応用が期待されている。本研究では、ダイナミクスの見地からその電気物性を体系的に特徴付けることで、学術分野だけでなく応用分野への波及効果を期待する研究である。 今年度は、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムと様々なアルキル鎖長を有するアルキルトリメチルアンモニウムブロマイドからなるPSCを合成し、この誘電緩和挙動を検討した。このPSCはミクロ構造としてラメラ構造を有することが知られている。誘電緩和測定の結果、この系には4つの誘電緩和が観測された。測定温度や試料などの様々なファクターから検討した結果、4つの誘電緩和はそれぞれ、電極分極、イオン対、高分子鎖のセグメント運動、高分子鎖の側鎖(界面活性剤のアルキル鎖)に由来する緩和であると帰属した。このうち、高分子セグメント運動に由来する緩和の緩和時間はVogel-Fulcher-Tammann(VFT)型の温度依存性を示し、伝導度を含む他の3つの緩和の緩和時間はArrhenius型の温度依存性を示した。 この結果は、今までに報告されているPSCの誘電緩和挙動とは全く異なる結果である。従って、この成果だけでも十分新規性がある内容として公表できる。また、低分子のイオン性物質では、電極分極や伝導度などのイオンの拡散に起因する緩和はVFT型の温度依存性を示すことが知られている。ところが、PSC系に関してはArrhenius型の温度依存性を示すという特異な特性を示し、このような非Fragileな特性からPSCが新規材料として注目される可能性があるといえる。
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