本研究は、分子骨格中にB-N結合を有する特異な核酸塩基類縁体の合成、及びその物性を明らかにすることを目的としている。 ホウ素-窒素結合(B-N)は炭素-炭素二重結合(C=C)と電子的に等価であるため、機能性分子中のC=C結合をB-N結合に置換することにより、分子の構造を変化させることなく、特異な機能を持つヘテロ環を開発することが可能である。本研究ではBN置換生体分子開発の第一歩として、BN置換核酸塩基の開発を行った。 本年度は、ピリミジン環を持つチミンのC_5=C_6結合をN_5-B_6結合に置換したBN置換チミン(T_<BN>s)をターゲットとし、このBNヘテロ環の物性を明らかにするため、ホウ素上にテキシル基及びメシチル基を有するThxT_<BN>及びMesT_<BN>を設計した。 合成は、N-メチルビウレットとモノ置換ボランとの1段階環化反応で行い、ホウ素上に置換基を有するBNチミンアナログ体を得た。ThxT_<BN>は、空気中で不安定であり徐々に分解されたが、MesT_<BN>は、同様の条件で極めて安定であった。X線結晶構造解析より、MesT_<BN>はオリジナルのチミンと比較すると、B-N結合の導入により核酸塩基骨格に歪みが生じているものの、B-N結合は二重結合性を有していることが明らかとなった。また、このBNヘテロ環は平面構造を保っていることから、核酸塩基アナログとしての分子認識が可能であることが示唆された。 これらの分子は、核酸塩基骨格の電子構造を全く変えない初めての人工核酸塩基である。今後、ホウ素やその他の部位に置換基を導入することにより、人工核酸塩基のアナログ体としてのみならず新たな機能性分子としての応用が期待される。
|