研究概要 |
本年度は小さなベント角を有する新規バナナ型液晶を中心に分子設計・合成を行い、その構造および物性の詳細を解明し分子設計の最適化を行った。まずベント角を与える中心コア部には1,7-ジヒドロキシナフタレンを用いることで約60度の屈曲形状を与えた。サイドウィング部としては、コアの両翼に2つのエステル結合と1つのシフ結合を介して3つのベンゼン環を繋いだ構造を導入することによって分子のアスペクト比を高め相転移挙動の多様化と複屈折性の向上を同時に図った。その効果は非常に著しく、2つのベンゼン環を用いてサイドウィング部を設計した時とは全く異なる液晶相転移挙動が確認できた。すなわち、小さなベント角のコアに対しサイドウィング部の長さを伸ばす最適化の結果、より短いサイドウィング部を有する分子系では高温側から等方相-B4相の相転移を見られたのに対し、新たなSmAP相を発現させ、等方相-SmAP-B4相の相転移の多様化に成功した。SmAP相はスメクチック層内で分子のベント軸を層と平行に一方向に効率よくパッキングされた構造と考えられており、申請者らが提案した新規ディスプレイモードへの応用の面においても非常に有効であると期待できる。さらに上記分子設計を基本に末端鎖にチオアルキル基を導入することによって、スウィッチングが可能な強誘電性ヘキサゴナール・カラムナー相(Co1h)を発現させ、初めてCo1h-B4相転移を確認することができた。今回の発見は枝分かれ末端鎖を持たないバナナ型分子系においては初めての確認であり、今後Co1h液晶相の詳細な構造・物性を解明し、強誘電性を用いた新規ディスプレイモードへとアプローチしていく予定である。
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