本研究では、次世代の2次電池を開発する目的で、多核金属錯体分子(分子クラスター)を正極活物質とする新しい2次電池『分子クラスター電池』を作成するとともに、その電池反応機構をX線吸収スペクトル(XAFS)によって明らかにした。まず、Mo^<6+>を12個含むポリオキソメタレートクラスター(POM、[PMo_<12>O_<40>]^<3->)を正極活物質としたリチウム2次電池を作成し、その充放電特性を測定した結果、1サイクル目の放電容量は従来のリチウムイオン電池の容量(148Ah/kg)を大幅に上回る260Ah/kgとなった。また、10サイクル目の放電容量は1サイクル目の8割程度を維持しており、良いサイクル特性を観測することができた。次に、このPOMクラスター電池の電池反応機構を解明する目的で、充放電中のin situ Mo K-edge XAFSを測定した。高エネルギー加速器研究機構を利用し、in situ XAFS測定専用の特殊な電池セルを自作して測定をおこなった。XAFSスペクトルの解析より、放電過程においてPOM分子が24電子の還元を経ることが明らかとなり、この電子の出し入れは充放電で構造を保ちながら可逆であると分かった。この結果は、分子クラスターの多電子の酸化還元によって大きな電池容量を得ることが可能であり、分子クラスターが高エネルギー型次世代電池の活物質として大変有望であることを示す。なお、分子クラスターの高還元状態([POM]_<3->⇔[POM]^<27->)は電池という固体電気化学でのみ得ることができる化学種(溶液中では3電子の還元までが可能)であり、高還元状態における新奇物性の発現(新しい現象の発見)が基礎科学的に期待されるであろう。
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