平成21年度の研究計画に従い、以下の研究を行なった。 【膜の集合形態の観察】 膜物質としてdipalmitoyl phosphatidyl choline(DPPC)を選び、26℃において、滴下法により水面上に作成したDPPC単分子膜の集合形態の観察を、蛍光顕微鏡・ブリュースター角顕微鏡・表面張力法を用いて行なった。顕微鏡観察において、膨張→凝集転移時に、全体に窪みのある特異的な膜形成過程を観察した。圧縮法では島状ドメイン膜が観察されることから、膜分子の親水基と水分子とが最適な配置で水素結合(水和)した膨潤な膜が形成されたものと考えられる。表面張力の結果からも、圧縮法に比べ分子占有面積が3割程度大きいことを見出しており、本研究で用いた滴下法により作成された単分子膜は、流動性のある生体膜のモデルとして有用であることが分かった。 【膜への麻酔薬の作用効果】 水面上DPPC単分子膜への麻酔薬エンフルランの作用効果(濃度依存性)を、水平型QCM・QCI測定装置(固有振動数:6MHz、感度:±0.5Hz(QCM)、±0.02Ω(QCI))を用いて行なった。エンフルラン濃度の増加に伴い、QCMでは振動数の減少(吸着量の増加)を、QCIでは抵抗値の増加(界面粘性の増加)を観測した。QCMとQCIとで変化の開始濃度が異なったことから、膜/水界面にエンフルラン分子がある程度吸着して初めて、DPPC単分子膜を含む界面の粘性が変化することが分かった。6mMの濃度近傍で振動数・抵抗値ともに変化量が収束後、不連続に変化したことから、エンフルラン準飽和吸着層が形成され、さらに多層吸着が生じることが分かった。このような特異濃度点は、臨床における麻酔発現と密接に関わっているものと考えられる。
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