研究概要 |
研究対象である「複合ヘテロ原子を有する電子供与体」として、メトキシ基を導入した新規TTP系電子供与体を合成した。メトキシ基を有する電子供与体の合成は極めて難易度が高く、報告例が非常に少ない。本研究では原料を十分確保できるノウハウを確立させることにより、新規電子供与体の合成を効率的に行うことができた。また、メトキシ基の有機溶媒に対する高い溶解性を利用して新たな合成経路の開拓も行っている。この新たな合成経路では、従来法で使っていた高い毒性の試薬を必要としないため、実験者の安全が確保され、環境への負荷が軽減されている。新規電子供与体BMO-TTPのカチオンラジカル塩を電解酸化法で作製し、黒色の板状晶として(BMO-TTP)_2X(X=PF_6,ClO_4)が得られた。これらの塩の結晶構造は母体であるBDT-TTPの塩とよく似ており、同じカルコゲノメチル基であるチオメチル基を有する電子供与体BTM-TTPの塩とは異なっている。そこで得られた塩の構造を詳しく調べてみると、メトキシ基を有するBMO-TTP塩ではメトキシ基が分子内で水素結合を形成しており、一方のメチル基は分子平面内にあることが判った。この様な水素結合はチオメチル基を有するBTM-TTP塩ではみられず、二つのメチル基は分子平面に対し垂直に立った構造をしている。これがBMO-TTP塩とBTM-TTP塩の結晶構造の違いに反映されていると考えられる。結晶構造解析の結果を基に計算したBMO-TTP塩のバンド構造とフェルミ面は擬一次元的であり、この塩がBMO-TTP分子の積層方向に擬一次元的な電子構造を有していることが示唆された。しかしながら、この塩の伝導性を四端子法で測定したところ、本質的にはヘリウムの液化温度(4.2K)まで金属的であり、低次元性特有の絶縁化が起きないことが判った。
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