研究概要 |
昨年度に引き続き複合ヘテロ原子(酸素及び硫黄原子)を有する電子供与体としてメトキシ基を有する新規TTP系電子供与体を合成した。既に合成経路が確立されていた新規電子供与体MOET-TTPのカチオンラジカル塩の作成を検討したところ、比較的良質の単結晶として(MOET-TTP)_2X(X=BF_4,ClO_4,PF_6,AsF_6,SbF_6)が得られた。これらの塩における分子配列は昨年度報告した(DMO-TTP)_2X(X=ClO_4,PF_6)に類似しており、低温まで金属的性質を示すことが期待された。しかしながら、これらMOET-TTP塩は半導体的な性質を示した。そこで金属相の発現を目指し、MOET-TTPの分子骨格に第3のヘテロ原子であるセレン原子の導入を行った。TTP骨格内にセレン原子を導入したMOET-TS-TTP及び、TTP骨格の外側にエチレンジセレノ基を導入したMOES-TTPの合成に成功し、これらのPF_6塩の結晶構造と伝導性を調べた。いずれの塩も電子供与体と対アニオンの比は2:1であり、本質的な結晶構造はMOET-TTP塩に類似している。(MOET-TS-TTP)_2PF_6は室温から低温(10K)まで金属的な性質を示し、最高被占軌道(HOMO)の寄与が大きいTTP骨格にセレン原子を導入することにより金属相が発現することが分かった。一方、HOMOの寄与が小さい置換基側にセレン原子を導入したMOES-TTPのPF_6塩では、セレン原子は立体障害として働き分子間の距離を遠ざけることが分かった。このことからこの塩ではMOET-TTP塩同様に半導体的性質を示すと考えられたが、実際には室温から230Kまで金属的な性質を示した。これは分子間距離が遠ざかっているものの、分子軌道の有効な重なりが確保されていることが原因であることが分かった。以上の研究成果の中で(MOET-TS-TTP)_2PF_6については10K以下の伝導性に興味が持たれ、超伝導相の有無について他機関の研究者と共同研究を行っている。
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