研究概要 |
1,3-ベンゾチアゾール(BTA)部位を付加させた複合TTF分子の各種誘導体のうち、エチレンスペーサーを有する分子1について、M(hfac)_2への配位錯体の作製を行い、その構造と伝導性・磁性などの各種物性について検討した。ドナー分子1がM(hfac)_2(M=Cu,Co,Mn,Ni)へ配位した錯体の合成はシクロヘキサン中で両者を混合後、シクロヘキサン/ヘキサンから再結晶することにより行った。以下に得られた錯体のうち、Cu錯体の構造と磁気的性質を示す。結晶学的に独立な1個のドナー分子と半分のCu(hfac)_2分子が存在し、組成比は2:1である。錯体中のドナー分子の結合距離は中性分子の構造解析結果にほぼ一致し、ドナー分子は中性であると考えられる。Cu(hfac)_2分子は二つのドナー分子に囲まれるように存在し、Cu原子の上下に原子間距離2.49AでN原子が位置している。結晶中で、(1)_2・Cu(hfac)_2錯体はa軸方向に配列し、配列間でTTF部分同士が面間距離3.74A(S-S接触:4.02A)で重なり合っている。ちょうど、TTF部分同士、BTA_2Cu(hfac)_2部分同士がそれぞれ分離積層したような構造を構築している。TTFカラム内でTTFペア同士は長軸方向に大きくずれながら積層しているため、良好な伝導カラムは形成されておらず、絶縁体であった。また、磁気的性質を測定したところ、Cu^<2+>スピン(g=2.19,S=1/2)のみが存在し、Cu^<2+>スピン間には相互作用は見られなかった。M=Co,Mn,Niの錯体についても、構造解析結果から、Cu錯体と同様の分子構造を有していることが明らかとなっているが、金属中心と窒素原子間の距離については、Ni錯体のみ結合距離に対応する短い値が観測された。また、Co錯体ではTTF部位同士によるカラムが構築されていた。
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