本研究課題では、液晶核の構造変化を利用したディスコチック液晶相の光スイッチングを世界に先駆けて達成するために、光応答性分子蝶番を液晶核に有する円盤状の化合物を合成し、液晶性および光応答性を検討する。そのために、今年度は、側鎖に長鎖アルキル基を有する大環状アゾベンゼンオリゴマーを設計し、3段階の反応により合成した。得られた環状アゾベンゼン誘導体の液晶性を偏光顕微鏡観察、示差走査熱量分析、X線回折などを用いて解析したところ、環状二量体は分子が二次元層状に組織化したスメクチック相を、環状三量体は分子が一次元柱状に組織化したカナムナー相を示すことがわかった。環状アゾベンゼン誘導体の液晶状態における光反応性を調べるために、偏光顕微鏡観察下で液晶薄膜に紫外光を照射した。すると二量体、三量体のいずれにおいても、アゾベンゼン部位の光異性化反応に伴う液晶相から等方相への等温的な相転移が誘起され、紫外光照射により得られた等方相は、熱により元の液晶相へ可逆的に変化させることができた。 本研究で開発した大環状アゾベンゼン誘導体は、光照射により光学異方性を有する液晶相と光学的等方相を可逆的に相転移させることが可能であることから、書き換え可能な光学メモリー、ホログラム材料等への応用が期待できる。また、この技術を活用して、ディスコチック液晶の電子伝導性を光によって制御することができれば、光パターニングによる全く新しいプロセスでエレクトロルミネッセンス素子、電界効果型トランジスタなどといった電子デバイスの作製が可能となり、有機エレクトロニクス材料分野において大きな波及効果をもたらすと考えられる。
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