本研究は酵素的交差反応性に着目し、本来の補欠分子とは異なる金属に結合した状態の酵素タンパク質を作製し、その新規な反応性を得ることを目的としている。本年度は昨年度に構築した、対象タンパク質の調整法をもちいてその特性評価および部位特異的変異体の調整・特性評価を行った。その後、構造の類似したタンパク質であるが、機能の異なるファミリーが存在する酵素群に注目し、同じタンパク質骨格を用いて複数の機能、特に酵素活性を発現させることを目標とした。タンパク質骨格として金属結合選択性が寛容な二核亜鉛中心をもつ金属-ラクタマーゼ、酸素との結合能を有する二核銅中心を持つタイプIII銅タンパク質を選択した。前者については銅置換組み換え体を調整し、銅の配位子となるアミノ酸を窒素原子に限定した変異体を調整した。その結果、得られた変異体はカテコール誘導体に対して強い酸化活性を有することが明らかになった。また、銅中心の分光学的特性評価の結果、チロシナーゼなどと同様のタイプIII銅に類似していることが分かった。これは、人工的に二核タイプIII銅酸化酵素を構築した初めての例である。一方で、対照実験としてタイプIII銅タンパク質としてチロシナーゼを取り上げ、配位子となっているアミノ酸残基に変異を導入し、金属取り込みの評価や速度論的な特性評価を行った。その結果、金属中心の構築に伴い、銅酸素活性種が重要な中間体となることを発見し、また、配位子アミノ酸の役割について新たな知見をえた。
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