研究概要 |
本研究の目的は特異な金属-配位子間の軌道間相互作用を利用して、従来にないスピン状態や電子配置を持つ高原子価金属錯体を合成し、それが従来とは異なる触媒機能を持つ「スピン制御触媒」を構築することである。「スピン制御触媒」を構築するためには1)スピン状態、電子配置が異なる可能性がある高原子価ポルフィリン金属錯体の合成、2)それらのスピン状態、電子配置及び電子状態の決定、3)それらの触媒反応性の比較検討が必要である。 本年度は1)と2)について進展があり、最大級に歪んだ低スピンポルフィリン鉄(III)錯体の分子構造と異常なスピン特定、新規鉄(IV)錯体の生成の可否、新規電子配置を有する1電子酸化鉄(III)ポルフィリンラジカル錯体を見いだした。 ポルフィリン鉄(III)錯体:ポルフィリン鉄(III)錯体に極めて立体障害の大きな軸配位子が2分子結合すると、低スピンとして最も大きくポルフィリン環が歪んだ。歪みに伴い、鉄とポルフィリン窒素原子との結合距離が従来の低スピン錯体に比べて著しく短くなり、鉄と軸配位子との結合距離が伸長した。この結果、温度の上昇に伴い低スピンから中間スピンの寄与が混ざるスピンクロスオーバー現象が観測された。 1電子酸化錯体:1)弱い軸配位子を有し大きくラッフル変形した鉄(III)1電子酸化ポルフィリンラジカルカチオン錯体が新規の中間スピンラジカルであることを報告した。2)新規の鉄(IV)錯体を与える軸配位子として論争のあるフルオライドについて検討した。NMR, UV-Vis,溶液Mossbauer分光法で検討した結果、ビスフルオロ錯体は高スピン鉄(III)ポルフィリンラジカルカチオン錯体であることが判明した。鉄(IV)錯体と鉄(III)ポルフィリンラジカルが軸配位子の微調整によって制御されていることが示唆された。
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